法人保険と損金の関係とは?全額損金(全損)・1/2損金・1/3損金のどれを選ぶべきか?

法人保険と損金の関係とは?

法人保険に大きく関わる「損金」。この損金額が大きければ税制上のメリットがあるという話をよく聞きます。

その中でも特に全損・1/2損金・1/3損金といった保険の種類が多くあります。その中であなた自身がどの保険を選ぶべきかは迷いどころです。

法人税は法人の所得から算定されます。税法の世界では所得=益金-損金となります。損金と経費というのは何か同じような意味で使われそうな気がしますが実際には似て非なるものです。

経費は会計上の処理で計算されるもので、一方損金は税法上の処理で計算されるものです。会計上では経費として計算されるものの中にも税法上の損金として扱われないものもあります。

全損・1/2損金・1/3損金

全損というのは支払った保険料の全額を損金計上できる場合のことをいいます。一方1/2損金・1/3損金というのは保険料の半額を損金計上できる・保険料の1/3を損金計上できる場合のことを言います。これだけみると保険料の全額が経費になる全損の保険が最も良いのではないか。そう思ってしまっても無理はありません。ただこの保険の損金制度にはからくりがあります。全損が最も良いというときばかりではありません。

全額損金(全損)が向いているケース

その年の法人税を減らしたいケース・将来の見通しが立ちにくい場合など。

たまたま大きな事業が当たってしまったなどの理由でその年の法人税を減らしたいという方は全損の保険に加入する方が多いです。そうすることでその年の税金の支払い額を少なくすることができます。

ただ全損タイプの保険は解約返戻金がない・もしくはあったとしても1/2損金・1/3損金に比較して小さいことが多いです。よって貯蓄効率は低くなります。また解約返戻金は全額が益金の対象となってしますので税金の対象になってしまうことが難点です。全損の保険の解約返戻金は10年程度がピークになります。そこに合わせて退職金の払い出しや設備投資などを行うことで解約返戻金と相殺されます。そのようなことがない場合には解約返戻金が戻ってきたときに多くの法人税を払うことになります。法人税の支払いを先延ばしにしただけでほとんどメリットがありません。

あとは将来の見通しが立ちにくい場合にも全損の保険に入る方も多くいます。この数年は業績がよさそうだけどその後は分からないなどの企業の場合も有効といえます。数年間は全損の保険に加入することで法人税の支払いを軽減できる。万一数年後に法人の業績が厳しくなった時には保険を解約をすることで返戻金が戻りますのでキャッシュフローが改善します。

このような時には全損の保険に加入することを考えても良いのかなという気がします。

全損の保険として代表的なものとしては死亡保険や医療保険などの定期保険などです。

1/2損金が向いているケース

キャッシュに余裕のある会社のケース・貯蓄に重きを置きながらも副次的に税制面での優遇を得たい場合など

保険料の1/2が損金・残りの1/2が資産計上をされる場合の保険のことを言います。1/2損金の保険は保険料の半額が損金として計上されますので税制面でもそれなりのメリットがあります。

ただそれ以上に1/2損金の保険は解約返戻率が全損の保険よりも高くなります。しかも解約返戻率のピークの時期が全損の保険よりも長くなります。資金的に長期の余裕があれば税制面での優遇を受けつつ解約返戻金を活用することで多くの資産形成を行うこともできます。今はお金に余裕があるけど将来の若者のために資産を残したいなどの方向でいる方に適した保険といえます。

このような時には1/2損金の保険に加入することを考えても良いのかなという気がします。

1/2損金の保険として代表的なものとしては長期平準定期保険などです。

1/3損金が向いているケース

長期の積立目的などを行いたいケース

保険料の1/3が損金・残りの2/3が資産計上をされる場合の保険のことを言います。1/3損金の保険は保険料の2/3が資産計上という形で法人税支払いの対象になってしまいますので税制面での優遇はあまり期待できません。常に利益が出ている・一度の大きな利益が出てしまったなどのようなケースで税金の支払いを減らしたいという方にはこの1/3損金の保険は向きません。

反面で1/3損金の保険は1/2損金の保険よりも解約返戻率が高くなります。しかも解約返戻率のピークの時期も1/2損金の保険よりも長くなります。さらなる長期の資産構築をしたいという方向けの保険になります。役員や従業員の退職金対策のような長期の積み立て目的に適した保険といえます。

このような時には1/3損金の保険に加入することを考えても良いのかなという気がします。

解約返戻率と実質返戻率

解約したときに戻ってくる解約返戻金には解約返戻率と実質返戻率があります。解約返戻率ばかりでなく実質返戻率を考えていかないといけません。

解約返戻率は支払った保険料全額に対して単純にどれだけ戻ってくるかを示したケースになります。

この場合は返戻率(%)=解約返戻金額/支払保険料総額×100(%)という数式になります。

全損のケースの解約返戻率と実質返戻率

支払保険料が1500万円で解約返戻金の額は1200万円の場合の解約返戻率は1200万円÷1500万円×100=80%になります。

一方実質返戻率は実質的な保険負担料に対してどれだけの返戻金が戻ってくるのかを示したケースになります。

この実質返戻率は会社が支払った保険料から、保険料を損金算入して軽減できた分の法人税額を差し引いた、実際に負担した保険料額に対する解約返戻金の割合のことをいいます。

実質支払保険料総額=実際の支払保険料総額-法人税節税額

実質返戻率(%)=解約返戻金額/実質支払保険料総額×100(%)という数式になります。

支払保険料が1500万円で全損のケース・法人税が23.2%・解約返戻金が1200万円の保険の場合の実質返戻率は次のようになります。

まず法人税節税額は1500万円×23.2%=348万円になります。

次に実質支払保険料総額は1500万円ー348万円=1152万円になります。

そうすると実質返戻率は1200万円÷1152万円×100%=104.16%になります。

半損のケースの解約返戻率と実質返戻率

また支払保険料が1500万円で解約返戻金の額は1425万円の場合の解約返戻率は1425万円÷1500万円×100=95%になります。

この場合も法人税は23.2%とした時の実質返戻率は次のようになります。

まず法人税節税額は1500万円×1/2×23.2%=174万円になります。

次に実質支払保険料総額は1500万円-174万円=1326万円になります。

実質返戻率は1425万円÷1326万円×100%=107.46%になります。

実質返戻率まで加味して考えると全損の保険よりも半損の保険に加入した方が実質返戻率が高くなることもあります。

半損の場合の方が一般的に解約返戻率が高くなりますのでこのようなケースになることはまれではありません。

よって必ずしも全損の保険に加入することばかりがいいというわけではありません。

ただ、今期の利益が急に上がってしまったなどの緊急的な措置を行いたいという場合などには全損の保険に加入するという形でもいいのではないかと思われます。